★★★ ★★ ★ スキンシップ医療 ★ ★★ ★★★





「よし。もう大丈夫そうだな!」

パタン。と治療箱をしめたトナカイが、ピョンとかわいらしく男部屋のソファーから飛びおりる。

「な〜がかったぜ。垢塗れになって死ぬかと思ったぜ」

相手に見せやすいようにと微妙に力が入っていた体を解しながらサンジは苦笑する。

「垢で死ぬようなやつはいないってドクトリーヌは言ってたぞ。第一、やけどした状態で風呂に入るほうが危険だ」

昔、誰かもよく言っていた台詞を投げられてサンジは苦笑する。
風邪を引いたというのに、風呂に入らない汚い身体で給仕はできないと駄々を捏ねた自分を思い出す。 無理を言うのはいつでも自分でそれを止めるのはクソジジイだったらパティだったりカルネだったり。
あの船を下りたというのに、今度は自分より年下の船医に心配されている。
サンジの船上生活は若い割には長い。
特にこのクルーの中ではサンジ程船旅に慣れている者はない。
気象を正確に読み取ることのできるナミでさえ、総合的な技術ではサンジを下回るだろう。 彼女の長く辛い時期は海ではなく島であったのだから。
記憶にある限りではサンジが生活するのはこの船で3艘目だが、どの船でも自分役割は子供なのだろうかと、 ふとサンジは訝しんぶかしんでしまう。
しかし、よくよく考えてみればこのゴーイングメリー号自体が子供の無邪気さと無謀さの塊だ。 今自分を叱っている船医も例外ではない。
気にする必要もないことだとサンジは笑う。
辺りに目をやれば子供遊びに夢中になっているゴムとマリモが居るのが見えた。

「りょ〜かい。だから今までは我慢に我慢を重ねて体拭うだけで我慢してたろ? あんなかじゃ、俺はけっこういい患者だったとおもうぜ?」

くいっとあごを左に傾ければそこには治療も録に受けない男どもがトランプに興じている。 もちろん賭けトランプである。
雷は効かなかったものの擦り傷だらけの船長は夕飯時の肉を。
雷はもちろんのこと噂ではものすごい高い所から落ちたと言われている怪我まみれの剣士は振舞われる食前酒を。
幾度かあった戦闘の中でもっとも酷いダメージを受けた長鼻は、空島から持ち帰ったダイアルに夢中で、 トランプなど見向きもせず、欲求に忠実な男だけがトランプに興じる。
しかもたった二人でダウト。

ダウトとは均等にカードを配りプレイ順を決めた後、 AからKの順で自分の番に対応したカードを裏向きで場に出していくゲームであり、 手札を先になくした者の勝ちとなる。
もちろんそれだけの単純なゲームなわけもなく。
それはゲーム名にも現れている。
そう、「ダウト」と呼ばれる所以である罠が存在するのだ。
まず、カードを出す際に自分の番に対応したカードをあえて出す必要はない。
これがこのゲームの面白さである。
他のプレイヤーは、出したカードが対応していないと思ったらまずは「ダウト」の掛け声を。
かけられた場合は出したカードを表向きにし、 自分の読み上げた数と対応したカードだった場合にはそれを疑ったプレイヤーが、 逆に対応していないカードだった場合はカードを出したプレイヤーが、 場に出ているカードを全て引き取ってゲームを続行する。
そして最終的な勝敗は手持ちのカードを早くなくした者の勝ちである。
つまりは下手をすれば、そのゲームはいつまでも続いていくこともありうる。
したがって、ダウトをゲームをたった二人で行うということは、嘘も本当も丸分かりであるのに行っているともいえよう。
そんなことにすら気が付かないルフィとゾロをサンジがバカと笑わないわけがないであろう。
しかもその中にゾロが居れば尚の事だ。

「あ、あ、あいつらやっぱ雷でどっかおかしくなったんじゃ…い、医者ッ!」

いくらルールが分からないくても、いや分からない癖にひたすら巡って、ひたすら並べ、 どちらも勝たないままに同じ事を繰り返していた彼らを、 心優しき船医は雷のショックでどうにかなってしまったのかと、おろおろ見やる。

「安心しろ、あいつらは元々、根っから大馬鹿野郎だ」

どうやら真剣にゲームをしている二人に対して、 それこそ結構に失礼な心配だとちらりとサンジは思わなくもなかったのだが、 純粋な心配からきている為に特には突っ込むのをやめておく。 ぽん。とピンク色の帽子を一叩きし、ようやく体から外す事を許された包帯をくるくると綺麗に巻き上げながらため息をついて笑う。

「おい、いつんなったら「ダウト」って言うんだお前ら?」

心底呆れた声をわざわざ作ってから、はやく己らのバカさ加減に気が付けと教えてやれば、 そのような裏の意図など生まれてこのかた意識したこともないだろう船長がにしししといつものように笑う。

「ん?だってよーいつ言うのかわかんねぇんだ、オレ」

にひひっひとカードをひらひらさせながらルフィが笑えば、

「なんだ、てめぇも知らなかったのかよ」

と顔を上げてため息をつくゾロ。

「どーせ、説明聞くのがめんどいとか思って真似しようと思ってたんだろ、バカマリモ」
「うっせぇよ、ぐる眉」

くるくると器用に包帯をまく手先を見ながら、ちょっとした売り喧嘩な会話の割にはにやりと楽しげにゾロは笑う。 それに気が付いたサンジはぴたりと包帯を巻く手を止めた。
なんだかとても嫌な予感がしたからである。

「…なん…?や、オレはそんなルールもわかんねぇんバカどもと賭けトランプなんかやんねぇよ」

なんだよ?と聞く前にびにょーんと大きく伸びをした船長にトランプに誘われ、 ゾロの笑顔を怪訝に思ったことなどすぐに忘れてサンジは答える。
今はトランプよりも、ナンパよりも大好きな料理よりももっとしたいことがあった。









ふんふんふふ〜ん。
ご機嫌丸出しに鼻歌が出てくるのも今回ばかりは仕方がないだろうと思いながら、 普段は近所迷惑(特にナミ)を省みて止めてしまうそれを今回ばかりはできそうにもなかった。
空島を出てしばらく、全身を嘗め回すようにして走り回った電撃は、 サンジの内部も傷めたがそれ以上に肌に負担が掛かっていた。
幸い、アレだけの雷を受けてもケロイド状にもならなかったが、 それでも軽いやけどを起こし、暫くは 軽くすれるシャツですらぴりぴりと肌を刺激し、 毎日チョッパーの治療と 本当にナミに落ちなくてよかったと溜息をつく。
ロビンは残念なことに雷を受けたようだが、 彼女はそれについて一切泣き言を言わなかった、 彼女のそれを聞きたいとサンジは 思うが、それを良しとするようなタイプではない。
気丈に前をむく漆黒の髪をもつ彼女を思い彼は溜息をつく。

「なに溜息なんかついてんだよ?待ちに待った風呂だろ?」
「ん。だってよ、やっぱロビンちゃんには俺位にはこっそり体が痛いの慰めてって…っつうあぁぁぁ?」

ざぶあぁあんと一気に後ろにのけぞったために大量の湯を撒き散らしながらサンジは叫んだ

「鍵、なんで、かけた。かけ…た?鍵」

一気に5歳児にまで退行したその台詞を聞きながらカチリと後ろ手に鍵をかけながらゾロが笑う。

「前に、鍵ぶちこわしたら借金が増えたからな。これ」

かちり。ユニットバスに設置されている便器のふたに黒い一本のそれをゾロは置いた。

「ヘアピン?」

緑色の短髪にはずいぶんと縁がないそれを見ながらサンジは戦慄く。
「てめ、こんなの使ってまで人の風呂の乱入してくんな!」

「久しぶりの風呂なんだろ?三助になってやるよ。んで、すみずみまで洗ってやる」
「?三助って何だよ?つか、脱ぐな。てかもうまっ裸ってなんだそりゃぁ!」

悲鳴が起こった浴室は数音で静まりかえり、時折水音が返るだけであった。








→裏に続く






2004/04/04




黒崎梢 様からのリクエスト。
こんなに遅くなるとは露知らず…黒崎様は覚えてくれていますでしょうか。 しかも裏希望なのにとりあえず表編です。裏編がんばります。汁沢山です。(本当か?)

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