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LETTER すべての、葬られた文字たちのために ウソップが今日もラウンジで手紙を書いている。 その表情はとても穏やかな時もあれば、つらそうな顔のときもあり、楽しそうな時もある。 きっと彼はその紙に、今までの冒険を書き綴っているのだろう。 あて先は一箇所のみ。 しかしその手紙が彼女に届けは、それは彼の唯一の部下の三人へとも届くこととなる。 彼女が、彼らが喜ぶ顔を思い浮かべ、彼は微笑を浮かべる。 皿を洗い終わったサンジがそれを見て、つられたように微笑んだ。 一日の汚れを落としたキッチンはピカピカで、 そして翌日の仕込みも終えてしまった彼には何もすることがない。 「……」 手に纏わりついた雫を拭った後、 すでに癖になってしまった喫煙癖で自然とシャツの胸ポケットにしまってあった煙草を抜き出すが、 直ぐにその手を止めると、ゆっくりと瞬きをした後にそっとそれをしまう。 静かな部屋では、火をつける音、煙草の煙で相手の邪魔をしてしまうことを考慮した結果である。 最も、流れる水音にも、止まった水音にも気がつかない相手の集中力では気が疲れる可能性も無いだろうとは思うが、 煙草も吸わず、邪魔をしたくない一心でその場から動かずにいる。 動きを止めた体が冷え出して暫く、ようやくウソップが筆を置く。 「ふぃ〜」 気の抜けた溜息を一つ出したウソップがぐるぐると肩を回す。 発明品を作る時には、机も使わずにおかしな姿勢で長時間を過ごしている時よりも、 使う部分が違うのだろうか、 それよりも短時間であるというのにその疲れ方は二倍にも違うようである。 「コーヒー、ココア、酒。どれにするんだ?」 ようやく何かすることができると、勝手に自分を制限していたサンジは、開放の喜びでウソップにサービスする。 「っわ!あ…。あぁ。そっか。うー、頭使ったからなぁ。ココアで」 声をかけられてようやくサンジの存在に気がついた彼は、恥かしそうに顔を赤らめた後、一人で納得をする。 「オッケイ。ココア一丁ッ」 「あ。そうだ」 手紙への集中力が途切れた途端に、口を動かすことを思い出したウソップは、 キッチンでココアを作り始めたサンジに向けて、以前から聞こうと思っていたことを問う。 「なー。あれ。溜まったか?」 「は?あれ?」 弱火に当てている小さな鍋から目を離さずにサンジが、質問に質問で答える。 「あれだよ、あれ。うー何て言ったっけ」 「だーかーらー。アレで分かるわけねぇだろ。ったく、俺とお前は熟年夫婦じゃねえんだから。 っうか、第一お前の嫁さんはカヤちゃんの予定だろ?」 「よ、よ、よ、嫁!って、ってか、よ、予定っって!」 嫁と言われたのも恥ずかしいが、予定という言葉がよりいっそう気になったウソップは、日頃の鍛えられたつっこみが冴えない。 「だって、カヤちゃんと俺が出会ったら、きっと、俺にメロメロになっちまうじゃねぇか」 ケケケと意地悪な笑い声に、ウソップはカッチーンとくるが、 手紙を書いた後には必ずサンジに世話になっていることを考慮してか、 何時ものようなマシンガントークは出てこない。 「で?あれってなんだ?」 サンジもウソップの遠慮に気がついたのだろう、そこまで気にしなくてもいいとは思うが、 それに触れてしまうのも戸惑われ、サンジは仕方なく話を元に戻す。 「あ、あれだ、あれ。カヤが前に手紙で書いてた、誤字を集める校正士。ってやつ」 「あー。あれか。そうだなぁ、お前の手紙のチェックしてて結構溜まったからなぁ」 「へぇ。そうかーじゃあ、そろそろ書けるんじゃねぇの?」 楽しそうな笑顔の相手にサンジは困ったように笑った後、出来上がったココアを相手の目の前に置く。 ふうわりとあがった湯気と一緒に、ウソップの好みのカカオの苦味が強めの香りが立ち上がる。 「んーそうだなぁ。考えてみっかなぁ」 以前からウソップに頼まれてサンジは彼の手紙のチェックをしていた。 現在、船内で、文字がきちんと書ける人間は、ナミ・サンジ・チョッパーそしてロビンと、 海賊船にしては知識人が多い。 しかし、ウソップが船で海へ出た頃にはナミしかいなく、 彼にとって、自分の手紙のチェックをナミにしてもらうのは、 そのチェックが有料であろうが、そうでなかろうが、 男のプライド…いや単に、手紙の送り人を知っている彼女に見られるのが恥ずかしくて、 頼むことができなかっただけなのだが。 「でもなー。あれ、よく考えたらロマンティックだよなー」 サンジに手紙の誤字チェックを頼んだ後、誤字脱字が無くなった事に気がついたカヤに、 ウソップは何も隠すことも無くその経緯を彼女に話したところ、思いもかけない返事を貰っていた。 それは、彼女が昔読んだ本に書いてあったとある校正士の話で、 彼は原稿の校正をした際に発生した誤字を集め、それだけで詩や小説、 随筆といった新たな文章を作り上げるという。 彼は、誤字として捨てられた文字を再生し、 その本の一ページ目には 「すべての、葬られた文字たちのために」 という献字がある。 「この俺にぴったりだよなー。 ナミさんとかロビンちゃんとかがサンジくんステキーとか言って感動しちゃうよなー」 うふふふと夢の世界に行ってしまったサンジを、毎度の事ながらも呆れた流し目でウソップは見る。 「…あー。どっちでいいって、どうせどっちにも相手にされな……ふむがッ」 間髪入れずに鼻を掴まれたウソップは、悲鳴を上げるとそそくさと席を立つ。 入れてもらったココアは全て胃の中に納まっているし、 暖かくなった体はそろそろ睡眠を欲していた。 「ッ!俺様はもう寝る!手紙のチェックはいつでもいいから。じゃッ」 相変わらずの逃げ足でラウンジを出て行ったウソップを無言で見送った後、 サンジはようやく味わえた煙草に満足そうに目を細めた。 ウソップの手紙のチェックを始めてから随分と経つが、もう何十枚もしたためられた手紙は、 何度読んでも相手への愛情を薄れさせることはない。 手紙をチェックする時には、礼儀としてその内容に触れることも、 揶揄う事もしないが、回を追うことに、その後字が少なくなっていた。 それが示すのは、ウソップが彼女の為に文字を独学で学んでいるということだろう。 実際、その姿はあまり見られることはないが、 夜食を運ぶ際に、寒さしのぎの毛布の下に隠されているそれに気がついて、 以来サンジはわざとロープを軋ませるようにして上っている。 そうすると、運ぶ食事が揺れてしまうが、戦うコックにしてみればその位は問題ではない。 ただ、彼のその暖かい手紙を読む機会が無くなってしまう事が淋しいと純粋にそう思う。 今回はどれ位少ないのだろうと、置き去りにされた下書きの手紙を捲り、中身をざっと確認する。 思った通りに少なくなった誤字を丁寧に赤入れし、 ポケットに忍ばせていた一枚の紙を開く。 そこにはウソップの手紙から丁寧に拾い集められた、 まだ何の意味も持たない文字が並んでいる。 「少ない文字数の方が、面倒くさくなくていっか」 ふう。と溜息を1つ着いたあと、 サンジは机にあったレターセットを手に取ると、丁寧に、僅かな文字をしたためた。 みなへ げんきにしてますか 自分の事は書かずに、手紙の常套句だけで作成されたそれを封筒に入れ、 暫く考えた後、サンジは冷蔵庫に貼ってあった一枚の紙を丁寧に折りたたみ同封した。 「俺の一番のレシピ。これ食って驚きやがれ、クソジジイ」 ゴーイングメリー号に乗船してから新しく作成したそれは、バラティエの皆は知らない味であり、 そして何よりも、この船のクルーに一番人気のそれを皆に伝えたかった。 「…微妙なのが、残っちまったな」 先ほどの手紙とも言えない程に短いメッセージの中に入れる事の出来なかった文字が二つ。 「さぁて、どうしょうかね」 ふう。と、手紙を書く間にも手を離さなかった煙草をふかし、 消されていない文字の残ったそれを灰皿に入れ、火をつける。 ゆらりと立ち上がった炎は、あっという間にその小さな紙を焼き尽くした。 「これで、作成終了…。あとは…届けるだけか」 今から自分が行おうとするその意味の無さと、自分らしからぬ行為の恥かしさにサンジは戸惑うが、 明日の仕込みの間に作成したつまみにチラリと目線を送ると、 意を決したようにサンジはその足を見張り台へと向けた。 「おら、夜食」 不寝番だというのに、毎度毎度、寝ぼすけている剣士を、 これもまた毎度毎度の蹴り業で無理矢理起すと、 目を覚ましたばかりで、しっかり開くことのない半眼で見つめられる。 「食いたくねぇのか?」 寝起きだから食欲が無いなどというタイプでは無いと分かっていながらも、 声をかけるのは、彼の目を覚ましたいからではなく、その逆であった。 「…」 無言でもしっかりと夜食が入ったバスケットを握り締めた、 夢遊病者のような無防備なゾロの姿にサンジは笑った。 「さてと」 ふう。と煙草の煙をふかして、その風向きを確かめると、 やや強めの風が止まないうちにと持ってきた灰皿の中味を海へと流す。 黒い海が空のように広がる空間に流された灰は風に晒されて小さくなる。 メモのような小さな紙からは僅かな灰しか生まれずに、それはあっという間に消えていった。 「ったく。ロマンチストで参るんだよなー」 かりかりとこめかみの辺りを掻き、 サンジが困ったように笑う。 ウソップが作った誤字から作られた手紙は二種類。 料理人として自分を育ててくれた場所と、今、最も彼の近くにいる相手へ。 「はにいっへんだ?」 ようやく目が覚めたのか、もぐもぐと口いっぱいに食べ物を詰め込んだ男が、サンジの独り言に反応する。 「…何でもねえよ。黙ってとっとと喰いやがれ」 まさかもう覚醒してるとは思わずにサンジが僅かに目を見開いた後、 自分の動揺を悟られていないかと彼は足元に座っている男に目をやると、 視線に気がついた相手が返事を求められているのかと勘違いし、 酷く素直に「おう」と頷いて、 再度食事に没頭する男に向かってサンジは笑った。 最後に余った誤字は「き」と「す」。 その言葉で作れる言葉など限られすぎていて、サンジにはこうして手紙を送ることしかできなかった。 END はじめまして。こんにちは。 藤堂あやです。 いつでも尾田先生は私の妄想の上をイきますね。 まりもの次は藻ですか?しかも進化系のマリ藻だって。 ちっくしょう。…かわいいじゃねぇか。(鼻血を拭きながら) あいかわらず、サンジしか見ていなくてごめんなさい。 !じゃなくて、お疲れ様でした!(敬礼!) 今回のペーパーの話は、北京から帰えるリムジンバスの中で思いついて、携帯にずっと打ち込んだ話でした。 たまにはこんなマロンティック(栗?)もよいのではないかと。 思ったんですがどーでしょうか? ちなみに、校正士のお話は左記の本からいただいてます。 いつかこの参考にしたような本のレイアウトでゾロサン本を出せたらいいなーとか思ってみたり。 …ちゅうかですね。 どんな本を読んでもゾロサンに変換する自分がコアイです。 はははは…。 ではでは、ご一読ありがとうございました。 今年の年末はサン欠にならなさそうで、ほっと一安心している私でした。 (油断は禁物?) 参考文献 「すぐそこの遠い場所」 クラフト・エヴィング商會 ちくま文庫 20051127 comic city ------- cityのペーパーでした! 誤字のお話だけに自分で書いておきながら、 これまでの自分の誤字脱字誤変換を考えると、 途中で書くのをやめて夕日の向こうに走り出したくなりました。笑。 事実、誤字脱字誤変換について、 ご指摘、ご意見を頂いてますので、 今後、もっと気をつけていきたいです。 まずは、校正時に気がついたら脱線して本文を追加する癖を直したい。です。 2005/12/03 |